リハビリ効果を発揮できる住宅

大手ハウスメーカーの標準仕様はすべて加齢配慮のバリアフリーとなっている。リハビリテーションの最高峰ニューヨーク大学で、事故などで障害をもった人々の機能回復の術を学び、現在はリハビリ整形外科医院と介護老人保健施設を経営する畑野栄治先生は「建築を手掛ける医師」として、その名を知られている。ある日、知り合いHさんが大学病院に勤務していたとき、在職中にリハビリテーションを終えて自宅に帰った患者さんが、再び寝たきりになっていると聞いて往診に向かいました。すると、「玄関の段差があるから外に出られない」「つまずくから隣の部屋に移動できない」とせっかく機能が回復しているにもかかわらず、「閉じこもり状態」になってしまっていたというのです。そして、この「閉じこもり現象」が心理的に悪影響を与え、鬱に近い閉鎖的な状態へと変わっていくというのです。何人もの患者さんが同様の状態だった。学生時代には建築家を志したこともあるHさんは、患者さんのための改築を思いついた。バリアフリーずいぶん前のことであります。バリア(障壁)自分自身の力で思いどおりに行動することができるようになると、患者さんたちは皆イキイキ生活にも積極的に復帰しようとするそうです。「リハビリの効果を発揮するためには、まず住宅を直さなくては」と話すHさんは、経営する在宅介護支援センターにバリアフリーのモデルルームを設け、親身になって患者さんたちの相談にのっている。白内障でも識別しやすい赤いカラフルな手すりを付けたり、車椅子の患者さんのために車椅子に座ったままで洗濯物が取り出せるように、30センチほど床下を掘り下げて洗濯機を設置したりという、医師ならではの提案をしているのだ。「特にキッチンは絶対に電気クッキングヒーターがいいですよ」と勧めるHさん。先生のお父さまとお毋さまが暮らすバリアフリー住宅も電化住宅です。私も、全国あちこちの介護モデル住宅を見てまわったが、大部分が電化キッチンでした。車椅子に座って料理をする場合、通常のキッチンよりもワークトップの高さが低めになるため、顔とコンロの位置がかなり近くなります。しかし、電気クッキングヒーターなら、炎がないので、熱くないし危なくないと、大変好評だ。さて、Hさんと一緒に高知県に講演に行ったときのことだった。「佐藤さん、リハビリテーションは、健常者には考えられないほどの、地道で苛酷な努力の積み重ねなんですよ。私たちにとっては何ともない段差や物の形状が、高く苛酷なハードルになったり、日常の簡単な動作がうまくできないですよ」とHさん。そして、1つの設備機器がリハビリテーションをまったく変えてしまったことをお闘きした。温水洗浄便座だ。「『トイレロボット』と私たちは呼んでいるんですよ」「『トイレロボット』ですか?」「ええ」畑野先生によると、手や腕などの上肢が不自由な人がトイレで用を足した後始末のリハビリテーションは、口でトイレットペーパーをちぎり、便座の上に敷いてそこにお尻を移動させて後始末するという難しいものだそうだ。それが、温水洗浄便座が登場して一変した。便座に腰掛けるだけで、「トイレロボット」が後始末してくれる。リハビリテーションは不要だ。こんなふうに、時には設備が日々の生活を変えるだけではない。トイレに行くたびに感じていただろう、相当な心理的ストレスを軽減してくれるのだ。